店の中を蚊が飛んでいる。
煩く飛び回ってはさっと刺して行く。
痒い、すばしっこい。
なんとかこの蚊をやっつけようとするが目が付いて行かない。
ここだッと手を打つが空振りばかり、終いには手がジンジンと痛くなって来た。
もうだめだと諦めていたら、目の前にふらふらと例の蚊が飛んで来た。
今度こそ!と思いっきり手を打つ。
ゆっくり手を開くと小指の所で蚊が息絶えていた。
まあ、ギリギリの所で仕留めたとしても退治した事には変わりない。
何日振りだろう、若い頃は雑作もなかった事が
齢を取るとなかなか難しい事だったのだと気が付く。これは快挙ではないだろうか!
この成果を誰かに教えたい!
久し振りの快挙を誰かと分かち合いたい。
「よーやった!」「すごい!」と言って貰おうと辺りを見回すが誰もいない。
私のヤッターメモリは一気に落ち、すっかりゼロになってしまった。
上げた手のひらは手持ち無沙汰にひらひらと宙を泳ぎ、
なんだか悲しくなった私はゆっくりと手を下ろすと、
じっと手のひらの蚊を見るのだった