その男は、友達の結婚式だとばっちり決めて
張り切って出かけて行った
結婚式場は城山ホテルといって、城山という小高い丘の上に立つホテルで、
地元では有名なホテルだ。
麓には西郷さんの銅像が建っていて、その丘の中腹には西郷さんが自害した
洞窟が残っていたりする
彼は鹿児島中央駅からその城山ホテルの送迎バスに乗った。時間はまだまだ
余裕がある筈だった。
ところがそのバスは直通ではなく、天文館という繁華街を経由してホテルに行くので
ある。信号に引っかかったりしてあっという間に時間が逼迫して来た。
ホテルに着いたのは式開始の五分前。
彼は慌てて受付を探すが見つからない
仕方なくホテルの案内係の人に聞く。
「もう式が始まってるんです、ヤマダくんの式場はどこですか!」
と聞くと、受付の女性はパラパラと予約表を調べると
優しく微笑んでこう言った。
なんと明日だったのだ!
案内の女性の優しい微笑みが心に突き刺さる。
一瞬にして力が抜け、ふらふらと外に出ると分けも分からず
タクシーに乗って帰ったのだった。
あんなに節約してバスに乗ったというのに、高いタクシー代を払うなんて。
その時の彼の心はすっかり落ち込んでしまっていた。
その訳は、土曜日が結婚式と決めつけていた彼は、次の日は大阪の友人が
遊びに来るので日曜、月曜と泊まりがけで宮崎に遊びに行く予定にしていたのだ。
すぐに結婚する友人に電話を掛けた。
「あのさー申し訳ないけど明日の式に出れなくなった。身内に不幸があってさー」
とんでもない良い訳だ!勝手に殺さないでくれるか!
これから先も何度か死ぬ事になるんだろうか、勘弁して欲しいものだ。